ミリタリー

2026/06/04

実戦的な訓練の数々が繰り広げられた日米共同訓練「アイアンフィスト」沖縄編

 

アイアンフィスト 沖縄編

 

2026年2月11日から3月9日にかけて実施された“IF26” こと、日米共同訓練「アイアンフィスト26」。水陸機動団と米海兵隊第31海兵遠征部隊により、九州・沖縄エリアを舞台として、実戦的な訓練の数々が繰り広げられた。今回は後半パートとなる沖縄での総合訓練をご紹介しよう。

 

さざ波を蹴立てて進むACV。このスピード感には驚かされる。さすが装輪式としただけのことはある。次から次へと久志クロッシングを目指して進む

 

 

訓練はいよいよ最終局面へ

 

 毎年冬に実施されている日米共同訓練「Iron Fist(アイアンフィスト)」。日本語に訳すと“鉄拳”となる。部隊では、訓練名を略して“IF”と呼んでいる。
 陸自にとって、喫緊の課題である南西諸島の防衛強化を念頭に入れた訓練であるだけに、最も重要な訓練と位置付けられている。そこで水陸機動団と在沖縄海兵隊である第31海兵遠征部隊31MEU(31st Marine Expeditionary Unit)という南西諸島防衛の要である2つの部隊が参加する。
 前回では、種子島にて行われた訓練をご紹介した。今回はIFの後半パートであり、沖縄本島で行われた総合訓練を取り上げる。それは、2月27日から3月9日にかけて主としてキャンプハンセン並びに中部訓練場で行なわれた。

 

沖に浮かぶ輸送艦「おおすみ」を発進し、上陸地点を目指して朝焼けの中を浮上航行する陸自AAV7

 

上陸地点の久志クロッシング手前で停止したAAV7から隊員たちが下りてきた。慎重に付近を警戒する


 3月4日、まず日米部隊は、久志クロッシングへと上陸作戦を繰り広げた。ここで水陸機動団のAAV7とともに31MEUが用いたのがACVだった。
 このACVは、米海兵隊にて長らく配備されてきたAAV7の後継として、2020年より配備を開始した。Amphibious Combat Vehicleを略してACVと呼ぶ。大きく変わった点はこれまでの装軌式を改め、装輪式としたこと。これにより見た目は大きく変わり、さらにサイズもかなり大きくなった。昨年実施されたIF25にも参加したが、上陸訓練は非公開だった。よって、日本にてACVによる上陸訓練の様子が公開されたのは今回が初めてとなる。
 ACVが完成するまでの道のりは長かった…。当初計画では、AAV7の後継として開発されていたのは、遠征戦闘車両EFV(Expeditionary Fighting Vehicle)だった。各国の対着上陸戦闘能力は格段に向上しており、母艦からAAV7が発進する瞬間は狙われやすくなった。そこで、水平線のはるか彼方に母艦を配置し、そこから長距離航行を行える能力をEFVに求めた。さらに、地上に上がってからも、戦車同等の打撃力と機動力をもって、戦いながら前進できるようにした。そのために、車上には30mm機関砲を装備した。このEFV開発は1990年代からスタートする。
 そんな中、米海兵隊は、従来のような強襲上陸を改めるという大胆な戦術の変更を決めた。それが、遠征前方基地作戦EABO(Expeditionary Advanced Base Operations)だ。これは今までの強襲上陸ではなく、自分たちのテリトリー内の島々へと上陸し、そこから長射程ミサイルや各種砲などで洋上の敵艦艇を攻撃し、米海軍や友軍艦艇の戦闘をアシストするという新しい戦術だ。

 

上陸を果たした米ACVは、そのまま道路へと上がり、一般道へ。国道329号線を横切り訓練場方面へと向かう

 

AAV7の着上陸に続き、金武ブルービーチでは、LCACによる揚陸訓練が行われた


 これにより結局EFVは白紙に。しかしながら、フロムザシーという海兵隊の根本はそのままに、既存のAAV7同等のコンセプトの新たな水陸両用車を開発することになった。こうしてBAEシステムズ社とイベコ社によりACVが誕生した。
 大きく変わったのが、装輪式としたことで、整地された道路であれば時速100kmで走ることができるようになり、上陸後のスピードが格段に向上した。車体サイズは大きくなったが、兵員室に搭乗できる人数は25名から13名と減った。貨物等の積載量も4.5tから3.3tに減少。それでも全体の重量は増加し、AAV7の重量が25tであったのに対し、ACVは32tもある。
 ACVは、海上を浮上航行しながら、上陸地点へと近づき、浅瀬に入りタイヤが地面に設置するなり、ものすごいスピードで走り出した。そして、そのまま一般道を通過して中部訓練場へと向かった。
 水陸機動団もAAV7にて続々と久志クロッシングへ。この場所は潟原であり、遠浅の地形となっているため、完全に上陸する前に、ハッチから海へ出て、そのまま警戒しながら徒歩で上陸地点へと向かう隊員たちもいた。
 同じ日、金武ブルービーチでは、LCACを使った車両や人員の輸送も行われた。

 

トリポリを飛び立ち、31MEUを輸送したMV-22Bオスプレイ。IF26期間中は、九州・沖縄エリアを飛びまくった

 

CH-47JAで進出してきた水陸機動団の隊員たち。ヘリが着陸すると、走り出してきた

 

日米ヘリボーンにて敵を制圧へ

 

 3月6日、中部訓練場を敵が潜伏しているエリアと想定し、日米で攻撃を仕掛ける場面となった。日本側はCH-47JA、米側はMV-22Bオスプレイを使って、部隊を運ぶ。双方の隊員たちは体や武器にバトラーシステムを装着。この日は、総合訓練にふさわしく、より実戦的な訓練となった。
 水陸機動団と言えば、前述したようにAAV7により、海から陸地へと進出する姿が良く知られているが、ヘリボーンも得意とするところ。

 

20式小銃を構えて慎重に歩みを進める隊員たち。バトラーを装着している

 

31MEUは、MV-22Bオスプレイにより展開してきた。写真の隊員は携行式ミサイルであるジャベリンを持っている


 降着した日米隊員たちはすぐに茂みの中に身を隠す。すると、敵部隊と遭遇したようで、銃声が聞こえてきた。報道エリアからその戦闘は見えなかったが、しばらくすると、ヘルメットを脱いだ自衛隊員が林の中から姿を現した。これは敵の攻撃を受け、死亡または負傷という判定が下された隊員たちだった。
 また木陰では81mm迫撃砲を設置する場面を見かけた。ここから発射することで、遠方の敵の前衛を攻撃して、日米隊員が突入する準備を進めているのだろう。
 31MEUには暗視ゴーグルを装着した隊員が多かった。実はこの日夕方から夜間にかけて、訓練場内にある市街地を制圧する予定があるからだ。本当ならばその場面も報道公開される計画であったが、米側から安全確保が難しいとの理由でキャンセルとなった。是非その場面も見てみたかった。

 

夜間での戦闘に備え、31MEUの隊員は、ほぼ全員ヘルメットに暗視ゴーグルを装着していた

 

訓練を走る水陸機動団の隊員。今回は第3水陸機動連隊が中心となって訓練を実施した

 

黙々と森の中を進む海兵隊員たち。時折大声を出し、森の中で警戒している仲間へと呼び掛けていた


 隊員たちが、すべて訓練場内へと降り立った。そして日米合流し、次なる行動を話し合う。ここから両部隊はさらに奥へ奥へと歩みを進めていった。取材はここまでとなったが、予定では9日までの間、敵と壮絶な戦いを繰り広げることになっている。
 こうしてIF26は終了した。なお、米側は強襲揚陸艦「トリポリ」を参加させていた。海上訓練終了とともに、護衛艦「いせ」らとともにホワイトビーチ(うるま市)基地へと入港した。
 まさにIF26期間中にイラン戦争が勃発したわけであるが、なんと「トリポリ」も派遣されることが決まった。それも約1800名の31MEUを乗せて。訓練から引き続き実戦へ投入するというのは、さすがアメリカらしい。まさかこのような形で、沖縄から彼らを見送る形になるとは思いもしなかったが…。

 

オスプレイから降着後、部隊を整えているところ。訓練はこのまま朝まで行われていく

 

陸自隊員と合流。この後の敵陣地がある市街地訓練場までどのように行動するか調整していたのだろうか

 

 

Text & Photos : 菊池雅之

 

この記事は月刊アームズマガジン2026年7月号に掲載されたものです。

 

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