ミリタリー

2026/05/05

過去最大規模、4,900名が参加した日米共同訓練「アイアンフィスト」

 

着上陸訓練当日の種子島はかなり荒れた天候となってしまったが、LCACによる揚陸訓練は何とか実施できた。輸送艦「おおすみ」(後ろの艦影)を出発した2隻のLCACが中山海岸を目指した

 

毎年恒例となる水陸機動団と米海兵隊第31海兵遠征部隊による日米共同訓練「アイアンフィスト」が2026年も2月11日から3月9日にかけて実施された。実際に日本南西諸島を舞台として行われる島嶼防衛訓練であり、期間中はリアルな訓練が次々と行われていく。種子島で行われた訓練の模様を軍事フォトジャーナリストの菊池雅之が追った。

 

 

 

 陸上自衛隊と米海兵隊が行う日米共同訓練は、規模の大小はあるが、年間を通していくつも行われている。
 その中でも、今最も重要な訓練と言わているのが「Iron Fist(アイアンフィスト)」だ。日本語訳すると“鉄拳”となる勇ましい名が与えられている。部内では、英語表記の頭文字をとったIFという略称が主として使われている。
 陸上幕僚監部のプレスリリースには「水陸両用戦に係る行動を日米共同・統合により演練し、相互運用性の向上及び水陸両用作戦能力の向上を図る」としており、まさに日本の安全保障上、喫緊の課題である島嶼防衛強化を目的としている。
 この水陸両用戦を行える陸自唯一の部隊が水陸機動団であり、そのパートナーとなるのが在沖縄海兵隊である第31海兵遠征部隊である31MEU(31st Marine Expeditionary Unit)だ。まさに南西諸島の防衛の要である2つの部隊が、実際に鹿児島県から沖縄県に点在する島々を使って訓練をする。この訓練が重要だと言われる所以は、まさにここにある。
 そもそも陸自が水陸両用戦をゼロから学ぶきっかけとなったのがこのIFだ。
 前身となる訓練は2005年に行われ、2006年からIFとして毎年実施されていく。
 陸自はながらく日本本土を敵の侵攻から守るために装備を揃え、部隊を整備してきた。しかし2000年に入り、中国による日本南西諸島部での示威行為が激化。冷戦が終結しても変わらず日本北方エリアの防衛警備に重きを置いてきた陸自は大幅な戦術の変更を余儀なくされた。日本の南西部に中国が侵攻してくる可能性が高まったからだ。新たに鹿児島から沖縄までの間に点在する島々が奪われる可能性が出てきた。もしそのような事態となった場合、陸自は敵の手に落ちた島を奪還しなければならないが、そのような事態は想定していなかったため、専門の部隊もなければ装備もなかった。
 そこで、2002年に西部方面隊直轄部隊として西部方面普通科連隊を新編した。次に水陸両用戦のノウハウを得るべく、米本土に渡り、米海兵隊から教えを請う道を選んだ。

 

なかなか天候が回復せず…。沖に浮かぶ「おおすみ」を眺めながら海岸線にて訓練開始を待つ米海兵隊員たち

 

LCACが無事ビーチング成功。すると、船体の左右にあるキャビンスペースから、水陸機動団の隊員たちがすぐさま降りてきて車両揚陸の準備を進める

 

海岸へ向けて洋上を疾走するLCAC。第1輸送隊の中に編成されている第1エアクッション艇隊には、6隻(番号:2101~2106)のLCACが配備されている。なお、第1輸送隊は、今年度より第1水陸両用戦隊へと改編された

 

LCACの前部から降りる第2水陸機動連隊の対戦車小隊の高機動車。後ろの高機動車は第3水陸機動連隊の対戦車小隊だった

 

LCAC2102が、浜辺で180度展開し、再び「おおすみ」へと戻ろうとしているところ

 

 こうしてIFは、カリフォルニア州にあるキャンプペンデルトン及びその周辺の演習場や海域にて開始された。その時のパートナーは11MEUだった。ボート操法や装備を身に着けたまま泳ぐ着装泳など、米海兵隊にとっては基本中の基本を11MEUが先生となり、みっちりと学んでいった。
 回を重ねるごとに訓練内容はステップアップしていき、米海兵隊のMV-22Bオスプレイや水陸両用車AAV7を使うなど、より本格的な水陸両用戦へ。
 こうして水陸両用戦を学んだ結果、2018年水陸機動団が新編された。この部隊がメディアなどで“日本版海兵隊”と呼ばれるが、その看板に偽りはない。
 2023年のIFから、日本国内にて開催されることになった。この時からパートナーは31MEUとなる。そしてリアルさを追求し、演習場以外の実際の島々にある砂浜や公園などが使われるようになった。
 今回はIF26として、2月11日から3月9日にかけて実施された。陸自側担任官は、陸上総隊司令官小林弘樹陸将、米海兵隊側担任官は、第31海兵機動展開部隊司令官ロジャー・B・ターナー中将がそれぞれ務めた。日米合わせて参加人員は約4900名と、過去最大規模となった。
 今回も種子島や奄美大島、福江島、出砂島、伊江島など、実際の島々が使われた。自衛隊や米軍の施設内や演習場などでの訓練の他、飛行場や公園、自治体のグランドなど、演習場外での訓練も多数行われた。こうした訓練を生地訓練と呼び、実際の地形を生かした訓練が出来るので、より実戦的な内容で演練できる利点がある。
 今回お伝えしたいのは種子島で3月2日に行われたこの生地訓練だ。
 ここでは、主として着上陸訓練が行われた。種子島までは、海上自衛隊の護衛艦「いせ」と輸送艦「おおすみ」、米海軍の揚陸艦「ラッシュモア」が使われた。なお、強襲揚陸艦「トリポリ」も参加していたが、この日は姿を現さなかった。

 

前之浜海浜公園を目指して飛んできた2機の米海兵隊のMV-22Bオスプレイ。第265海兵中型ティルトローター飛行隊(VMM-265)所属機で、普天間基地(沖縄県)に駐屯している

 

公園のグランドに降着したMV-22Bの後部より、まるで弾かれたように海兵隊員たちが飛び出してきた

 

キャプション公園内に展開すると、すぐさま警戒態勢をとる海兵隊員たち。もちろんここは演習場ではないのだが、いつものように粛々と訓練を続けていく

 

 着上陸訓練が行われたのは、中種子町の中山海岸から広がる海岸線一帯だ。
 しかし天候には恵まれず、強風に豪雨とまさに嵐。そのためCRRC(偵察用ボート)やAAV7を使った訓練は中止された。
 だが雨脚が少し弱くなり、なんとかLCACを使った訓練は実施できた。「おおすみ」を出発した2隻のLCACは、ビーチングをして前部ハッチを降ろした。搭載していた車両を一旦降ろして、すぐに載せ、再び「おおすみ」へと戻っていった。
 引き続き、前之浜海浜公園では、MV-22Bオスプレイによるヘリボンが行われた。種子島パートでのメインとなる訓練だ。ここも当然ながら演習場ではなく、機体が降り立つのは、公園のグランドだ。
 小雨が降る曇天の空から唸るかのような重低音が緑豊かな公園に響き渡ってきた。訓練を見学しようと集まった親子連れや犬を散歩する老人たちがその音を辿って空を見上げる。木立の間から2機が見えた。
 着陸すると、海兵隊員たちは飛び出すように降り立ち、そのまま公園の茂みの中に姿を隠す。驚くべきことにそのまま公園内へと展開していった。まさにこれぞ生地訓練。
 公園内の雑木林、遊歩道に次々と展開し、小銃を構えて警戒していく。その目の前数mで公園利用者が見学するギャップ。
 時間を置いて、再びMV-22Bがやってきて、先程とは逆の要領で、海兵隊員たちを収容していった。
 こうして種子島における訓練パートは終了。ここまでは機能別に行われていく訓練であるが、ここから総合訓練へと突入する。
 その最後のステージとなるのが沖縄だ。

(次回へ続く)

 

IFに参加している31MEUは、第3海兵遠征軍(3MEF)の隷下部隊であり、キャンプ・ハンセン(沖縄県)に駐留している。太平洋からインド、中東と幅広いエリアを担当している

 

カールグスタフM4をかまえる海兵隊員。サーブ社が開発した無反動砲の最新バージョン

 

電柱の影に体を隠して、付近を警戒する海兵隊員。手にしているのはM27IAR。分隊支援火器として使用する

 

迎えに来たMV-22Bへと乗り込んでいく海兵隊員たち

 

 

Text & Photos : 菊池雅之

 

この記事は月刊アームズマガジン2026年6月号に掲載されたものです。

 

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