2025/12/03
現代アメリカ海兵隊の戦い方 海兵隊の銃器ラインアップ【 Mk13 MOD7/M240B/M18/M9編 】
大変革を進めるアメリカ海兵隊に注目
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現在、アメリカ海兵隊は世界的な安全保障環境の変化を受け、戦車部隊を全廃したり、砲兵部隊(通常の火砲を装備)を大幅削減する一方で、歩兵部隊に加え対艦ミサイル部隊、防空部隊、兵站部隊などを擁するMLR(海兵沿岸連隊)を新編したり、ロケット砲兵部隊や無人機部隊を増強するなど大変革を進めつつある。それは、我が国の安全保障とも密接に関係していると言っていいだろう。
そこで、アームズマガジンWEBでは改めてアメリカ海兵隊に注目。少し前の記事にはなるが、フォトジャーナリスト・笹川英夫による沖縄の31st MEU(第31海兵遠征部隊)への取材記事(「月刊アームズマガジン」2023年8月号および9月号掲載)を抜粋、再構成してご紹介していく。取材ではアメリカ海兵隊の主要な職種である歩兵を中心に、各種訓練や装備などを収録しており、この第3回では海兵隊の銃器ラインアップより、Mk13 MOD7スナイパーライフル、M240B機関銃、M18ピストル、M9ピストルをピックアップする。
第1回 M27 IAR編はこちら
第2回 M4A1/M16A4編はこちら
Mk13 MOD7 Sniper Rifle
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SPEC
使用弾:.300ウィンチェスターマグナム
作動方式:ボルトアクション
装弾数:5発
Mk13 MOD7は2018年にアメリカ海兵隊に採用された、ボルトアクションスナイパーライフルだ。
海兵隊はベトナム戦争時より、レミントンのM700ボルトアクションライフルをベースにしたM40およびそのアップデートモデルをスナイパーライフルとして採用してきたが、Mk13 MOD7では使用弾薬として.300ウィンチェスターマグナムを採用。M40の7.62mm×51弾では1,000m弱だった射程距離を、Mk13 MOD7では1,200m強へと大幅に向上させている。そのほか、近代的なシャーシを装備したことによる汎用性の向上も見逃せないポイントだ。可動式のチークパッドや細かい調整が可能なバットプレートを持ちながら、左側面への折りたたみ機能もあるストックを持ち、ピストルグリップはリアパネルを交換することで射手の体格に合わせることが可能となっている。
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Mk13 MOD7のハンドガードにはキーモッドスロットを備え、ボルト上部のトップレールはレシーバー後部まで延長。スコープに加えバイポッドやレーザーレンジファインダーなど幅広いオプション装備に対応している。
実際その性能は良好なようで、実際にMk13を用いた訓練に従事した偵察狙撃兵からは肯定的なフィードバックが得られ、特に射撃精度の面で評価が高かったようだ。M1911からM9への更新然り、長く使われてきた銃が別機種に更新される時は得てして一部の反発を招きがちだが、Mk13への更新ではそういった声が聞こえないあたりからもその性能の高さが窺える。そうした要素から判断する限りでは、実際に使用するスナイパー本人にとってはもちろん、彼らに援護される海兵隊員たちにとっても頼れる存在であることは間違いないだろう。
なお、ここ最近までアメリカ海兵隊ではボルトアクションスナイパーライフルとしてはM40A6とMk13 MOD7を使用してきたが、後継としてUSSOCOM(アメリカ特殊作戦軍)を皮切りにアメリカ陸軍でも採用を決めているMk 22 PSR(バレットMRAD)を導入しつつあり、これら2機種を置き換えることになる。
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M240B Machine Gun
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SPEC
使用弾:7.62mm×51
全長:1,262mm
銃身長:630mm
重量:12.3kg
作動方式:ガス圧利用
装弾数:100発(弾薬ボックス使用時)
M240Bは7.62mm×51弾を使用する汎用機関銃である。汎用機関銃とはバイポッドを使用して軽機関銃、三脚で固定して重機関銃、装甲車に搭載して車載機銃と、用途に応じて使い分けられる機関銃のことを指す。FN MAG汎用機関銃をベースとし、米軍ではまず車載機銃としてM240を採用し、後に歩兵用のM240GおよびM240Bを採用している。
M240Bの採用以前、米軍では汎用機関銃として7.62mm×51弾を使用するM60機関銃が採用されていた。これは火力自体は申し分ないが、特に初期型は装弾不良や作動不良の発生率が高かった。さらに機関銃では必須となる銃身交換(断続的に射撃すると銃身がオーバーヒートし、命中精度低下や暴発を招く恐れがあるため交換する必要がある)の際にも、銃身にキャリングハンドルがないため耐熱グローブを装着しなければならないなど、運用に難があった。こうした問題を受けて、M60を置き換える次期歩兵用汎用機関銃選定コンペに勝ち抜いて採用されたのが、M240Bだったというわけだ。
歩兵向けの汎用機関銃ではあるが本体重量は12kgを超え、安定した継続射撃には射手と弾薬手の2名を要するため、1名で運用できるM249やM27 IARとは住み分けがなされている。
最初にM240Bを採用したのはアメリカ陸軍であり、一方の海兵隊では歩兵用、車載用、ヘリコプター用と幅広い運用が可能なM240Gを独自に採用していた。海兵隊はこれとは別にM240Bも採用し、2つの機種を運用する形をとっている。
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M18 Pistol
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SPEC
使用弾:9mm×19
全長:183mm
銃身長:99mm
重量:0.8kg
作動方式:ショートリコイル
装弾数:17発/21発
M17/M18は2017年に米軍が採用した新型拳銃で、フルサイズモデルをM17、キャリーサイズ(コンパクトモデル)をM18と呼称している。
ベースとなったのはSIG SAUERのP320拳銃だ。かつて同社のP226は米軍の次期制式拳銃(M1911A1の後継)トライアルにて僅差でベレッタ 92Fに敗れており、数十年越しの雪辱を果たしたとも言えるだろう。
M18(およびM17)はM9と比べ設計が大きく異なっており、M9ではアルミ合金製フレームでハンマーファイア式の構造なのに対し、M17/M18ではグロックシリーズが普及させたポリマーフレーム/ストライカーファイア方式を採用。M9採用以降における米軍の意識の変化を示し、さらには拳銃界の常識の変化に沿った形になっている。
世のシューターの大多数がグロックを愛用していることからもわかるとおり、今や世間のトレンドはポリマーフレーム/ストライカーファイアだ。それを受け入れたという点でも、米軍の意識変化が見て取れるだろう。一方でそのグロックも、M17/M18のトライアルに参加して敗れている。ただ世間の流行りに迎合したわけではなく、自分たちの基準に基づいて選定を行なったという証左だろう。
さらにトリガーアクションはシンプルなシングルアクション(M9はダブルアクション)、銃身下部に20mmレールを標準装備する(M9はA1モデルでレールが実装された)など違いを挙げればきりがないが、その中でも注目すべきはスライド上部に光学機器が装着可能なオプティクスカットが設けられたことだろう。現代ではハンドガンにもマイクロドットサイトを取り付けるのが常識であり、より素早く精密な照準を可能とする。現状では申請が許可された隊員のみ装着が許されているようだが、そう遠くないうちに全海兵隊員がドットサイトを装備したM18を装備するようになるかもしれない。
各国の軍・法執行機関で使用されている
M9 Pistol
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SPEC
使用弾:9mm×19
全長:217mm
銃身長:125mm
重量:0.97kg
作動方式:ショートリコイル
装弾数:15発
1985年、米軍はM1911A1の後継となる制式拳銃として、ベレッタ 92FをM9として採用した。
ベレッタ 92シリーズは、銃身を傾けて閉鎖・開放を行なうティルトバレル式のショートリコイル(現在多くの拳銃が採用)ではなく、ロッキングブロックという銃身とスライドを固定する閂(かんぬき)のような部品を用いて、銃身を前後させて閉鎖・開放を行なうプロップアップ式のショートリコイルを採用している。この方式は部品点数が増えるため整備性が悪化するが、銃身が揺動しないため射撃精度に優れるという長所を備えていた。スライド上部が大きくくり抜かれて銃身が露出した特徴的な外見で、ビジュアル的な評価も高い。
本銃の採用にあたっては、先代の制式拳銃が未だに愛好者の多いM1911であり、使用弾もパワーがあると信仰されていた.45口径から9mm×19弾に変更されるとあって、一部で反発も招いた(実際、「M1911の方がよかった…」とこぼしたベテランは多かったらしい)。しかし、『ダイ・ハード』をはじめ、当時のハリウッド映画では主人公の武器として使われることが多かったため認知度は高く、銃自体の高性能とも相まってアメリカ国内に限らず世界中で人気を集めることになった。2017年にSIG SAUERのM17およびM18に制式拳銃の座を譲るまで、実戦・メディア問わずに活躍し続けたのは周知のとおりである。M9は制式拳銃の座からは退いたものの、未だ多くの個体が現役のようで、米軍の広報写真ではM9を用いて射撃訓練を行なう隊員の姿も確認できる。民間でも「先輩」たるM1911同様、ベレッタ92シリーズの人気は根強く、
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電子書籍版も発売中!!
「イラストでまなぶ!用兵思想入門 現代アメリカ海兵隊の戦い方編」
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最後にちょっと宣伝になるが、「イラストでまなぶ! 用兵思想入門」シリーズ最新刊となる『イラストでまなぶ!用兵思想入門 現代アメリカ海兵隊の戦い方編』が発売中だ。
「用兵思想」とは、戦争のやり方や軍隊の使い方に関するさまざまな概念の総称である。これについて知っておくことで「その軍隊がどのような任務を想定し、いかに組織を作り戦うか」といったことを理解できるようになる。
本書では現在進行中のアメリカ海兵隊の大規模な変革と、それを必要としている海兵隊やアメリカ海軍、さらにはアメリカ軍全体のあたらしい用兵思想、それを実行するために編成される海兵隊のあらたな部隊とその装備、指揮統制の方法などを、イラストとともにくわしく解説している。
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日本周辺の有事におけるアメリカ軍の戦い方が見えてくる
本書では「イラストでまなぶ! 用兵思想入門」シリーズ(ホビージャパン刊)を手掛ける田村尚也氏が解説を、しづみつるぎ氏がイラストを担当。現代のアメリカ海兵隊が大変革を進める理由や、その用兵思想がわかりやすくまとめられている。
日本の安全保障とも密接に関わっているアメリカ海兵隊が抑止力としていかに機能し、有事にはどのように戦うのか。ご興味をお持ちになった方に、お薦めしたい1冊だ。
Text & Photos:笹川英夫/アームズマガジンウェブ編集部
取材協力:U.S.MARINE CORPS 31st MEU
この記事は月刊アームズマガジン2023年8月号に掲載されたものから抜粋、再構成されたものです。
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