2026/01/02
【実銃解説】SIG SAUER P320【前編】
AM SPECIAL All about P320
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SIG SAUER P320 -前編-
SIG SAUERがP320を発表したのは2014年1月のことだ。もうすぐ12年が経過する。このP320が誕生するまでの経緯と、それから起こったことを今、改めて振り返ってみたい。この銃の歴史は、かなり波乱万丈なのだ。
SIG SAUERのポリマーフレームピストル
世界の銃器市場で、SIG SAUERのポジションは確固たるものとなっている。同社は、ハンドガン、アサルトライフル、バトルライフル、ボルトアクションライフル、マシンガン、ピストルキャリバーカービン、サブマシンガン、エアガン、エアソフトガン、オプティックス、サウンドサプレッサー、弾薬など、幅広い分野に製品を供給している総合銃器メーカーだ。もちろんそれらすべてを自社製造しているわけではなく、他社からOEM供給を受けているものも少なくないが、その多様さは他のメーカーを圧倒している。
同社が大きく飛躍するキッカケとなったのは1985年に決着したアメリカ軍のサービスピストルを選定するXM9トライアルで、SIG SAUER P226が最終候補にまで登り詰めたことだろう。長期に及ぶ選定トライアルの中、ずっとトップを走り続けていたベレッタ92SB-Fに対し、これが決着する1年前に遅れて参戦したP226は、一気にベレッタに追い付き、ギリギリまで追い詰めた。そんなP226の実力は誰もが認めるものであった。
M9としてアメリカ全軍に採用されることはなかったものの、プロフェッショナルが選ぶ銃としてP226は広く認識されていった。P226のコンパクト版であるP228がM11としてアメリカ軍に限定採用されたことをはじめ、P226のバリエーションはFBIを筆頭に多くの法執行機関に採用されていく。
その高い評価を足掛かりに、ライフルなどの分野にその守備範囲を本格的に広げていくのは、2000年にSIG SAUERの経営母体が変わってからのことだ。しかし、話を広げ過ぎると収集が付かなくなるので、ここではハンドガンの分野にのみ話を留めたい。
SIG SAUERとそのアメリカ法人であるSIG Armsが快進撃を始めた1985年、そこに立ち塞がるように登場してきたのが、1982年に誕生したグロックだ。1985年にアメリカ法人Glock USAを設立して正式に市場参入し、そのわずか数年後、アメリカの警察官の装備するハンドガンの約半数はグロックが占めるといわれるようになった(これについては諸説あり、半数という数字に明確な根拠はない)。当然、民間市場でもグロックのシェアは大きく、同時期にアメリカ法人SIG Armsを設立したSIG SAUERにとって、グロックの存在は事業規模拡大を阻害する大きな要因であっただろう。
それは他の銃器メーカーも同様だ。そこで80年代の終わり頃から90年代に、各社はグロックの特徴を取り入れた製品を市場投入していく。いわゆるポリマーフレームの採用だ。
SIG SAUERが最初のポリマーフレームピストルを市場に投入したのは1998年とかなり遅かった。その理由については、SIG SAUERがビジネスの上で善戦していたからだといえる。メタルフレームのP226、P228、P229は、グロック旋風が吹き荒れる中でもかなり人気があり、慌ててポリマーフレーム市場に参入しなくてもよかったというわけだ。同じことはベレッタにも言える。XM9トライアルで最後まで残ったこの2社は、ポリマーフレームでなくても、高い人気を維持できていた。そのため、ベレッタもポリマーフレーム市場に参入したのは遅く、2000年になってやっと9000Sを発表している。
SIG SAUERを代表する傑作P226、その進化型のひとつがこのP226スコーピオンだ。P226の成功があったからこそ、現在のSIG SAUERが存在する。P226は素晴らしいメタルフレームピストルだが、P320のような発展性はない
SIG SAUERが1998年に市場投入したSIG Proと称するSP2340, およびSP2009は、メタルフレームのP226、P228、P229をポリマーフレームに置き換えることでコストダウンを図った製品だった。
SIG SAUERに限らず、当時各社が投入したポリマーフレームピストルは概ね、同じような製品で、DA/SAトリガーシステムのハンマーファイアードでデコッキングレバーを装備したもの、あるいはシンプルにダブルアクションオンリー(DAO)としたものが多かった。
これはグロックの魅力を各社が正しく理解していなかったことを示している。グロックの魅力は、ポリマーフレームの採用による軽量さと低価格であることだけではない。最大の魅力はプレコックストライカーによる撃発システムにあった。グロックのストライカーは自動的に半コッキング状態となり、シューターは射撃する際、残りの部分を引くだけで撃てる。プルがかなり軽くて短い。さらにリセットも短い。そしてこのトリガープルは常に同じだ。シングルアクションほどではないが、それに近い感覚で撃てる。さらにマニュアルセーフティもない。操作は極めてシンプルだ。
このトリガーシステムが組み込まれておらず、単にポリマーフレームにしただけでは魅力半減となる。いや4/5減だろう。もちろん、パテントの壁もあってグロックのようなシステムにできなかったということもある。
いずれにしても、グロックに対抗しようとしたガンメーカーは、グロックのトリガーシステムの優位性を正しく理解していなかったようだ。
SIG SAUERも例外ではない。SP2340やSP2009は普通のDA/SAトリガーで、デコッキングレバーを装備するものだった。すなわちP226やP228のフレームをアルミからポリマーにしただけに過ぎない。2002年には、小改良を加えたSP2022が登場し、フランスの国家憲兵隊Gendarmerie nationale(ジャンダルムリ)は2003年にこのSP2022を採用した。またフランスの全法執行機関もそれに追従し、合計27万挺という大型受注となった。
ただし、これを弾みにSIG SAUERのポリマーフレームピストルの人気に火が付くという事にはなっていない。
フランスで27万挺採用されたという実績があったため、SIG SAUERのカタログ2020年版までずっと載り続けた。売れないモデルはすぐにラインアップから消してしまうSIGSAUERとしてはかなり異例のことだ。(PHOTO BY Tomonari Sakurai)
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| SIG SAUER 英語読みをすれば、“シグサワー”、ドイツ語読みでは“ジィグザゥアー”が比較的近いだろう。同社はドイツとスイスの合弁企業であったが、2020年末にドイツの拠点を閉鎖、アメリカ企業となっている。 “SIGザウエル”というドイツ的な表記が使われることもあるが、実際にはドイツ人でも“ザウエル”とは発音しない。これは“r”を母音化しない、かつての舞台発音、あるいは舞台ドイツ発音という特殊なものに基づいており、一般生活では使われない読み方だ。 SIG SAUERをどう発音するかは、各自の判断に委ねたいので、アルファベット表記をしている。ちなみに筆者は“シグザゥアー”と英語、ドイツ語発音を混ぜて発音している。 |
この頃、SIG SAUERは特殊なDAOトリガーを開発している。DAK(Double Action Kellerman)と呼ばれるトリガーシステムで、SIG SAUERの技術者Harold Kellermanが開発したものだ。これは一種のDAOトリガーなのだが、通常のダブルアクションはトリガープルが約4.5㎏(10lbs)であるのに対し、約3㎏(6.5lbs)と軽くなっている。この軽さはハンマーから長いアーム(leverage arm)を伸ばし、梃子の作用でハンマーを動かすことで実現した。これによってデコッキングレバーはなくなった。
このDAKトリガーの場合、シューターは連射時に2つの選択肢を持つ。一つはトリガーをショートリセットさせて撃つ手法で、トリガーの動きはわずかだ。通常のDAOトリガーではできない芸当だが、約900g(2lbs)ほどトリガーは重くなる。もう一つは完全にトリガーを戻す手法で、トリガーを引く動きは長いが、軽いトリガープルが得られる。
DAKトリガーは一言でいえば、グロックのセーフアクションに対抗しようとしたもので、通常のDA/SAトリガーとデコッキングレバーを組み合わせた操作方法を大幅にシンプル化している。2004年頃、SIG SAUERは多くの既存製品にこのシステムを取り入れたバリエーションを加えていった。
同時期、ヘッケラー&コックはLEM(Law Enforcement Modification)、ワルサーはQA(Quick Action)といった新しいトリガーシステムを開発、既存のモデルに搭載して、SIG SAUERと同様にグロック対策を図っていた。
しかし、SIG SAUERのDAKは思ったほど、市場から歓迎されなかったらしい。一時は次々とDAK対応モデルを増やしたのだが、数年後にはそのほとんどが消えてしまった。そんなSIG SAUERにとって次の一手がP250だった。
2007年の発売直前に撮影したP250。ファイアコントロールユニット(FCU)によるモジュラーピストルコンセプトは素晴らしいものだったが、ダブルアクションオンリーという時代遅れのトリガーシステムが足を引っ張り、全く人気が出なかった。これをベースにストライカーファイアードのシングルアクションに作り替えたモデルがP320だ。
P250
この銃は2004年のIWAアウトドアクラシックスで試作品が展示された。SIG Proとはまったく別の新型ポリマーフレームピストルで、最大の特徴が、ハンマー、トリガー、トリガーバー、シアを一体にまとめたファイアコントロールユニット(FCU)を装備していることだ。これをグリップモジュールに収め、バレル、スライド、マガジンを組合わせることで銃として完成する。P250はいわゆるモジュラーピストルであった。
これはドイツのSIG SAUER GmbHで企画されたものだが、ドイツでは試作しただけで、その後ほとんど進展させず、アメリカのSIG Armsが強く製品化を求め、2007年11月にやっと発売に辿り着いた製品だ。
ちなみにその1 ヵ月前の2007年の10月1日、アメリカ法人SIG ArmsはSIG SAUER, Inc.に社名変更している。
P250はこのファイアコントロールユニット=(FCU)をコアに、様々グリップモジュール、バレル、スライドを組合わせて、フルサイズ、コンパクト、サブコンパクト等に組み換え、さらに口径の変更もできること、これが大きなセールスポイントだった。SIG Armsもそれを強くアピールした営業展開を図ったのだが、市場はほとんど反応しなかった。
最大の敗因は、P250がハンマーファイアードのDAOトリガーであったことが挙げられる。スムーズなプルだがDAKではない。トリガープルは約4kg、テイクアップは短いが、トリガードライブは長い。リセットは完全にトリガーを前進させる必要がある。まさにDAだ。
この2007年の時点において、グロックのパテントは失効しており、どのメーカーもグロックのクローンを製造できるようになっていた。またグロックのトリガーシステムに対抗すべく、各社のポリマーフレームピストルを新たにデザインした結果。その多くがシングルアクションストライカー、もしくはプレコックストライカーを採用するようになっており、かつてのようなDAOトリガーで製品展開しているメーカーはほとんどなくなっていた。一部にDAOトリガーは残っていたが、その多くはかなり小型のセルフディフェンス専用モデルや廉価版といえるようなモデルばかりになっていた。そんな時代にP250はハンマーを装備したDAOトリガーを採用しており、市場がほとんど反応しないのは無理もないことだったといえる。
TEXT:Satoshi Matsuo
PHOTO:Yasunari Akita
この記事は月刊アームズマガジン2026年1月号に掲載されたものです。
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