2025/12/04
オールド・モデルガン・アーカイブ:金属モデルガンでたどる名銃ワルサーP38のミニ競作史 Part.3
金属モデルガンでたどる名銃ワルサーP38のミニ競作史
かつてワルサーP38は、日本のガンファンの間で、永遠の名銃と呼ばれていたことがある。銃としての完成度が高く、これ以上のものは作られず、ずっと残り続けるだろうと思われていたのだ。その複雑巧緻なメカニズムには夢と憧れが詰まっていた
MGC P-38ブローバック〈MJQ〉(1974年)
コマーシャルタイプ、ミリタリータイプ
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六研とMGCのコラボで生まれたP38
1971年の第1次モデルガン法規制のあと、さらなる法規制があるのではないかという観測がモデルガン業界に流れた。そんなことになれば業界は大きな痛手を受け、モデルガン自体がなくなってしまいかねなかった。そこで、業界が足並みを揃えて改造防止の安全対策を施したり、悪用防止のキャンペーンを行ったり、正しい楽しみ方の啓蒙活動を行うなどの必要があるとして、1974年12月26日に日本モデルガン製造協同組合(現在の日本遊戯銃協同組合、ASGK)が設立された。
ここで公には初めてメーカー各社の横のつながりができて、コラボレーションも行なわれるようになった。その1つがMGCのP-38ブローバック。MGCと六研のコラボレーションで生まれた。超マニアックな人たちの間ではMJQとして知られるモデルだ。六研の六人部さんのM、MGCの神保会長のJ、ハイ・クォリティー・シリーズという意味のQを合わせ、神保会長が好きだったというモダン・ジャズ・カルテットのMJQになぞらえたもので、スライド右側にMJQと刻まれていた。
外観的な美しさ、忠実さではCMCよりも上とする人が多かった。ただCMCはトリガーガードの上部ラインがダルマ型の後期型で、MGCはスレートの初期型という違いはある。メカニズム的には、ショートリコイルも再現したスタンダードがあるCMCの方が上だったが、ブローバックに関しては専用として作られたMGCのほうが上。同じ六人部さんの原型ながら、どちらを選ぶか悩んだファンも多かった。
DATA
主材質:亜鉛合金、ABS樹脂(グリップ)
撃発機構:ハンマー、シングル&ダブルアクション
発火機構:前撃針(デトネーター)&ファイアリングピン
作動方式:デトネーター方式ブローバック、ストレート
カートリッジ:オープンタイプ(のちに9mmロング[9.5mm×23])
使用火薬:平玉紙火薬
全長:212mm
重量:850g
口径:9mm
装弾数:8発+1(薬室内)
発売年:1974年
発売当時価格:7,900円、カートリッジ別売 1発35円
※販売目的の所持禁止。違反すると一年以下の拘禁刑又は三十万円以下の罰金に処せられます。(2025年現在)
※寸法などのデータは当時のメーカー発表によるもので、実測値ではありません。また価格は発売当時のものです。
国際産業 ワルサーP38(1976年)
コマーシャルタイプ、ミリタリータイプ、ゲシュタポタイプ
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OEMで作られた最後の金属P38
最後に作られた金属製のP38が国際産業のP38(広告・カタログでの表記、パッケージではP-38)だ。2025年12月号の当コーナーでご紹介した国際産業のゴールドカップ/コマンダーと同様に、カトウ技研が設計、製造、部品発注、加工・組み立て、パッケージングまですべて行なったOEM製品。
1976年の時点で、市場には金属製のP38はCMCのP.38ブローバック/スタンダード、マルシンのP-38ブローバック/スタンダード、MGCのP-38ブローバックMJQ、さらにはMGCのP-38スライド・アクションも存在した。それぞれ共存していたわけで、それだけ人気のモデルであったことが伺える。そんな群雄割拠の混戦状態の中、それでも国際産業があえてP38をモデルガン化したのは、自社製モデルガンのラインアップの充実を図りたかったからだろう。ゴールドカップ/コマンダーのモデルガン化もそうだった。しかも、穿った見方をすると、OEMなら万が一新たな法規制で禁止になったとしても、金型を自社で持っていないので被害が少なくて済むのではないか…。
ただ、ゴールドカップ/コマンダー同様、どうにも外観的なデザインにクセがあるという声は多かった。そして全体にばねが強く、スライドを引ききるのは大人でも難しかった。仕上げは、国際産業製品に共通の丁寧さ、美しさで、パーティングラインもほとんど目立たなかった。メカニズム的にはほぼCMCと同等で、ブローバックモデルも予定されていたものの、発売1年後に第2次モデルガン法規制が施行され、姿を消すことになってしまった。
DATA
主材質:亜鉛合金
撃発機構:ハンマー、シングル&ダブルアクション
発火機構:前撃針&ファイアリングピン
作動方式:手動操作、ロックトショートリコイル
カートリッジ:ソリッドタイプ
使用火薬:平玉紙火薬
全長:210mm〈150mm〉
重量:950g〈900g〉
口径:9mm
装弾数:7発
発売年:1976年
発売当時価格:各6,500円、カートリッジ7発付き
〈 〉内はゲシュタポモデル
※販売目的の所持禁止。違反すると一年以下の拘禁刑又は三十万円以下の罰金に処せられます。(2025年現在)
※寸法などのデータは当時のメーカー発表によるもので、実測値ではありません。また価格は発売当時のものです。
※モデル名などは、基本的にはメーカー表記に準じていますが、メーカー自身の表記にも揺らぎがあるため、本稿ではその時に参考にした資料に従って表記し、あえて統一していません。
※拳銃型の金属製モデルガンは、1971年の第一次モデルガン法規制(改正銃刀法)以降に販売されためっきモデルであっても、経年変化等によって金色が取れると銀色と判断されて規制の対象となることがあります。その場合は黄色や白色、または金色の塗料を塗るなどの処置が必要です。
TEXT&PHOTO:くろがね ゆう
この記事は月刊アームズマガジン2026年1月号に掲載されたものです。
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