エアガン

2025/12/03

オールド・モデルガン・アーカイブ:金属モデルガンでたどる名銃ワルサーP38のミニ競作史 Part.1

 

金属モデルガンでたどる名銃ワルサーP38のミニ競作史

 

かつてワルサーP38は、日本のガンファンの間で、永遠の名銃と呼ばれていたことがある。銃としての完成度が高く、これ以上のものは作られず、ずっと残り続けるだろうと思われていたのだ。その複雑巧緻なメカニズムには夢と憧れが詰まっていた

 


 

MGC P-38アンクルタイプ(1966年)

 

MGC製P-38アンクルタイプ(写真はアタッチメント類をすべて装着したアンクルカービン)
※エクステンションバレルのハンドガードが誤って前後反対に装着されています

 

TVスパイアクションの人気を受けて作られたP38

 

 1960年代、『007』映画をきっかけに、日本でスパイアクション・ブームが巻き起こった。それをより盛り上げたのが、アメリカのTVドラマ『0011ナポレオン・ソロ』(1964 〜1968)の放送。日本では1965年から1970年にかけて放送され、子供から大人まで、みんなスパイアクションに夢中になった。
 『007』では主人公のジェームズ・ボンドが使うPPKをMGCがモデルガン化して大ヒット。『0011』でも主人公たちが使うカスタムのP38が大人気となり、MGCは続けてモデルガン化することにした。コンセプトはまったく同じ。映画やTVのように連射できるモデルガン。つまり、ブローバックなどまだない時代だったから、指の力でスライドを動かすスライドアクションだ。
 ストックやスコープ、サイレンサーなどのアタッチメントをセットにしたアンクルカービンはそれなりに高価なものとなったが、それでも銃単体より人気が高く大ヒットになったという。

 

リアサイトのノッチの前にねじのモールドがあるが、これは取材した実銃のP38がたまたまそうなっていてそのまま再現されたため。後期型ではなくなる

 

TV用のプロップガンは、スコープもストックもグリップに取り付けるようになっていたが、MGCではフレームにしっかりと取り付けられるようになっている

 

 DATA 
主材質:亜鉛合金
撃発機構:なし
発火機構:前撃針(装填衝撃発火方式)
作動方式:スライドアクション
カートリッジ:ソリッドタイプ
使用火薬:平玉紙火薬
全長:175mm
重量:800g
口径:9mmパラベラムショート(P-38、ベレッタ共用)
装弾数:8発
発売年:1966年
発売当時価格:

 本体 3,300円(ガンブルー仕上げ3,700円)
 P-38アンクルカービン 8,300円(ガンブルー仕上げ8,700円)
 マズルブレーキ 400円、スコープ 2,200円、マウント 400円、エクステンションバレル 300円、ショートサイレンサー 400円、ストック 800円、16連マガジン 700円、カートリッジ別売 12発箱入り 350円

 

※経年変化等によってめっきの金色が取れると銀色と判断されて規制の対象となることがあります。その場合は黄色や白色、または金色の塗料を塗るなどの処置が必要です。
※寸法などのデータは当時のメーカー発表によるもので、実測値ではありません。また価格は発売当時のものです。

 

 

中田 ワルサーP38(1966年)
軍用モデル、戦後モデル、アンクルタイプ

 

中田製ワルサーP38戦後モデル

 

中田製ワルサーP38アンクルタイプ(Photo by Keisuke.K)
※バレルやハンマーはノーマルのままだが、グリップにストックやスコープを取り付けるようになっていて、よりプロップガンに近いとされる

 

日本初の本格派P38モデルガン

 

 1966年、中田商店が専門誌の広告で「P38は世界の拳銃人気投票にて最上位です」と書くほど、P38人気は高かった。中田商店でも『0011ナポレオン・ソロ』人気から、アンクルタイプをモデルガン化するつもりだったようだが、すでにMGCで企画が進行していることを知り、急きょミリタリーモデル(当時は軍用モデルと表記)に切り替えたらしい。
 アンクルタイプの発売は軍用モデルの発売から4カ月後くらいとなった。この時コマーシャルモデル(当時は戦後モデルと表記)も発売され、価格はMGCのアンクルタイプに合わせるように各モデル3,800円に値下げされている。
 コンセプトは、実銃に準じた本格派のP38。原型製作を務めたのは当時中田商店の社員だった六人部登(むとべのぼる)さんで、アメリカ軍の基地内で実銃を取材して、サイズはもちろん、メカニズムも実銃に忠実なモデルガンを作り上げた。ただ、取材した銃がマニアの間でナロースライドと呼ばれるレアなモデルだったので、モデルガンもスライド幅がやや狭いという特徴を持っていた。
 中田のP38の複雑で精巧なメカニズムに驚かされた人は多かった。その結果、MGCのアンクルタイプとほとんど同時発売となった中田のP38も大ヒットとなった。
 このモデルは、中田がモデルガンの製造から手を引いた後マルシンが金型を引き継ぎ、改良を加えて1974年にはブローバックモデルを発売している。

 

フロントサイトの背面に反射防止のセレーションはない。ベース部分とブレード部分の背面が一直線につながっているのが残念

 

初期型のスライドは改造防止のため、このようにブリーチブロック部分が別部品とされていた。後期モデルでは一体化される

 

シグナルピン(残弾指示ピン)はバレル後端に当たって突き出るのではなく、装填されたカートリッジによって押し下げられて突き出る方式

 

初期モデルでは安全対策のため前撃針がフレーム側にあったので、ロッキングブロックは左右に分割されていた。その名残で一体となった後期型でもロッキングブロックはねじ留めだった

 

 DATA 

主材質:亜鉛合金
撃発機構:ハンマー、シングル&ダブルアクション
発火機構:前撃針(初期型はフレームに固定、後に銃身内)&ファイアリングブロック
作動方式:手動操作、ロックトショートリコイル
カートリッジ:ソリッドタイプ
使用火薬:平玉紙火薬
全長:21.6cm
重量:965g
口径:9mmパラベラム
装弾数:7発
発売年:1966年
発売当時価格:4,500円(のちに3,800円)、カートリッジ7発付き

 

※販売目的の所持禁止。違反すると一年以下の拘禁刑又は三十万円以下の罰金に処せられます。(2025年現在)
※寸法などのデータは当時のメーカー発表によるもので、実測値ではありません。また価格は発売当時のものです。


 

※モデル名などは、基本的にはメーカー表記に準じていますが、メーカー自身の表記にも揺らぎがあるため、本稿ではその時に参考にした資料に従って表記し、あえて統一していません。
※拳銃型の金属製モデルガンは、1971年の第一次モデルガン法規制(改正銃刀法)以降に販売されためっきモデルであっても、経年変化等によって金色が取れると銀色と判断されて規制の対象となることがあります。その場合は黄色や白色、または金色の塗料を塗るなどの処置が必要です。

 

TEXT&PHOTO:くろがね ゆう

 

この記事は月刊アームズマガジン2026年1月号に掲載されたものです。

 

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