2025/12/10
HK45 Compact Tactical

Gun Professionals 2020年8月号に掲載
ヨーロピアンガンメーカーは.45ACP対応ハンドガンの開発にあまり積極的でない場合が多い。しかし、ヘッケラー&コッホはP9Sの時代から.45のバリエーションを加え、米国市場へのアプローチを続けてきた。現行のHK45 は同社の.45 オートの完成形であり、そのコンパクトモデルはNAVY SEALSも採用するなど、高い評価を獲得している。
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H&Kの人気
サプレッサーレディのハンドガンは筆者の住むカリフォルニアで撮影することは難しい。しかし、ネバダ州に行けば、特別な制約なしに、そういったハンドガンを撃つことができる。
新型コロナウィルス感染拡大による混乱により、2020年3月頃から銃器と弾薬の売り上げが急速に伸びた結果、市場では完全な品薄状態になり、現在もそれが続いている状態だ。
テストに用いる弾も9mmは手元にじゅうぶんな余裕があったが、前回のワルサーPPQ45SD と今回のHK45C タクティカルの撮影のために.45ACPを買い足しする必要があった。ベガスで現地調達しようと地元ショップを数店舗周ってみた。しかし、どこも在庫はあっても価格の高騰が激しく、新型コロナウィルス感染拡大以前とは状況が全く変わってしまっていた。
ベガスにはガンショップが多い。さんざん探し回り、室内レンジ併設の店舗で、やっと無難な価格の.45ACPが購入できた。ショーケースには主要ブランドの銃が思っていた以上に並んでいたので話を聞いてみたところ、実は少し前までは完売に近かったが、ようやくまとまった数が入荷したのだという。
この時期にJCPに参加の意思を持っていたベレッタからはPx4 Storm、グロックからピカティニーレイルを備えたG21SF、SIG からはP220コンバット、S&WからM&P45など.45ACPオートの新製品が立て続けに登場した。あの時代、米軍は9mmから.45ACPに回帰を目指していたのだ。
HK45CTはHK45を小型化したHK45Cに、スレデッドバレルとサプレッサーサイト(ハイプロファイルサイト)を追加したタクティカルモデルだ(HK45にも同仕様のHK45タクティカルがある)。付属のフィンガーレスト付きマガジンエクステンションを装着した10連マガジンにより、コンパクトといっても実際にはフルサイズとほとんど同じような大きさになっている。
カリフォルニア州では販売許可が下りていない最新モデルも多く、その評判などをリサーチする良い機会でもあるので店員さんとしばし話し込んだ。そしてVP9に目が留まる。自衛隊がSFP9 M(VP9のヨーロッパ市場での製品名)を採用したニュースは今月号(2020年8月号)で語られている通りだが、興味があったので現在の評価を聞いてみた。
その店員によると「VP9は好きな人はかなり評価しいるけど、H&Kファン歴が長い人達の一部からはハンマー方式の方がやはり良いなと距離を置かれる事もあるよ。平均的な評価としては…、うーん両極端じゃないかな。H&Kハンドガンにおいてはストライカー方式のトリガーに近い感覚で撃てるLEM仕様もあるし、ハンマー方式も決して人気が薄れている訳ではないって事だね」という回答だった。
発売から4半世紀以上も経過したUSPはデザインに古さが目立つのは仕方がないが、P2000やP30はエルゴノミクス(人間工学)が優れているので安定した人気があるとの話だった。
VP9には9mmの他に.40S&WのVP40もあるが、現時点で.45ACPモデルは未発売だ。数年以内に全体を大型化しHK45のマガジンを使用するVP45が登場しても驚きはしないが、現在のH&Kの主力.45オートは、いうまでもなくHK45シリーズだ。大きすぎる印象の強かったUSP45の弱点を改良した発展型で、装弾数を減らしてまで握りやすくしたグリップには得意の人間工学が活かされている。特にそのコンパクトであるHK45C(Compact)、及びHK45CT(Compact Tactical)は、NAVY SEALSでも使用されているモデルであり、安定した人気を誇っている。
今回は7月号に引続き、ラスベガスのE. Morohoshiさんが所有するスレデッドバレルを持つHK45CT(コンパクトタクティカル)を、筆者のHK45と共に比較テストしてみた。

H&Kハンドガンの系譜
戦後生まれのガンメーカーである
Heckler & Koch(ヘッケラーウントコッホ:H&K)のハンドガンは、その時代における最新技術や、他のメーカーでは見られないような斬新なアイデアに満ちた製品が多かった。それらの多くは製造中止になった後も、個性的なデザインにより強い印象を残している。
同社最初のハンドガンは、1968年にマウザーHScを土台としたHK4で、バレルとマガジンを交換するだけで.380/.32/.25ACPそして.22LRの4種類へ、口径変換が可能なブローバック方式のポケットモデルだった。
それに続いて、西ドイツ軍をはじめ多くの国が選定したアサルトライフルG3や、それをSMG(サブマシンガン)化して高い評価を得たMP5で採用したローラーディレイドブローバック方式をハンドガンに組み込んだP9を設計。さらにDA(ダブルアクション)を追加したP9Sへと発展させ、これのサプレッサー付きモデルがNAVY SEALSにも採用された。
凝りまくったメカニズムで複雑化したP9Sであったが、プレス加工を多用して全体的な生産効率を引き上げ、さらにはトリガーガード周辺を樹脂化するなど、新しい製造法を取り入れた野心作だった。9mm×19の他に.45ACPモデルも製品化され、1911系とはかなりかけ離れてはいたが、固定式バレルにより命中精度の高さとその作動方式による撃ちやすさから、アメリカ市場でも根強い愛好家達も生み出した。
この新しい製造法への飽くなき挑戦はさらに加速し、1970年に世界初のポリマーフレームハンドガンであるVP70を誕生させる。まさしく“樹脂製フレーム時代の幕開け”であったはずなのだが、そのコンセプトである“廉価版の軍/警察用拳銃”という位置付けが災いし、VP70はさほど成功しなかった。
低価格化を目指すゆえ、パーツ点数を減らし加工を容易にする目的で口径9mm×19でもストレートブローバックを採用した結果、スライドが大型化して重量が増し、樹脂製フレーム採用の意味を薄めてしまった。当時としては圧倒的ともいえる18連マガジンを装備していたが、ストライカー方式のDAオンリーの重いトリガープルが、ハンドガンとして魅力をかなり引き下げた。VP70が真価を発揮するのは、ホルスター兼用ショルダーストック装着で3点バーストが可能な事ぐらいだ。現実問題、ハンドガンの3点バーストやフルオート機能は、ほとんど需要がない。その一方でショルダーストック装着機能を除いた市販版VP70Zが全然売れなかったのも当然だった。
約10年後に登場したグロックが成功した結果、ポリマーフレームの時代が始まり、その結果、ポリマーフレームを最初に手掛けたのはH&KだということでVP70の存在が思い出され、技術のパイオニアを自負するH&Kの面子だけはかろうじて守られたが、VP70はH&Kにおける失敗作の代表だった。
VP70に続くH&Kのハンドガンは、テロ事件に揺れる西ドイツ警察の装備強化のために開発されたPSP(のちのP7)だ。今度はガスディレードブローバック方式を採用、速射性と携帯時の安全性を追求し、スクイズコッカーによるストライカー発射方式を組み合わせ、またもや市場を驚かせた。しかし、ガスディレードブローバック方式は、連射を続けると触れないくらいトリガー上部のフレームが加熱するという弱点が見つかり、その部分を改良、マガジンキャッチをレバー方式にしたP7M8、そして13連マガジンにしたP7M13が開発される。その凝りまくったメカニズムはH&Kらしさに満ちていた。しかし、9mmを超える大口径化への対応が困難で、人気が出てきた.40S&W弾を使うP7M10はスライドがアンバランスなほど大型化してしまい、.45ACPモデルのP7M7は試作段階で断念。それでも9mmのP7M8は2007年まで製造された同社のロングランモデルで、最後まで根強いファンがいた事を証明した。


