2025/12/11
S&W パフォーマンスセンター モデル945

Gun Professionals 2020年6月号に掲載
S&W社のカスタム部門“パフォーマンスセンター”が、1911スタイル.45オートを凌駕すべく、満を持してリリースしたシングルアクション、45ACP口径のフルサイズピストルがModel 945だ。その工作精度、フィット&フィニッシュ、そしてその集弾性能は折り紙付きで、当時“ハイエンドカスタム1911に比肩する製品だ”といわれた。
全長:223.5mm(8.8”)
銃身長:127mm(5”)
口径:.45ACP
装弾数:8+1
撃発方式:シングルアクション
トリガープル:1.6kg - 1.8kg(3.5-4.0 lbs.)
ハンドラップドフレーム&スライド
チェッカードフロントストラップ
ハンドフィットバレル&ブッシング
チタンコーテッド スフェリカルバレルブッシング
ハンドポリッシュドバレルランプ
カスタム フロント&リア スライドセレーションズ
アンビデクストラウスサムセイフティ
ベベルドマガジンウェル
2トーンフィニッシュ
マイクロアジャスタブルサイト
スライドストップは、サードジェネレーションのものがそのまま使われている。スライドのレースカット(逆L字の縁取りがこう呼ばれていた)が美しい。
マズル部分はチタンコーティングされたカーボンスティール製のスフェリカルブッシングでタイトに固定されている。バレルの傷は、前オーナーが付けたものだ。スフェリカルブッシングは硬度が高いため、組み上げ時に無理をするとバレルにキズが入る場合がある。リング部分の角度をバレルのそれと一直線にして、細かいアジャストをしながら組み上げていかないと、このようになってしまうのだ。
S&W パフォーマンスセンター
S&W社に“Performance Center”(パフォーマンスセンター:PC)が設立されたのは1990年のことで、セミオートのマスターガンスミスであったポール・リーベンバーグ氏(Paul Liebenberg)とリボルバーマスターであるジョン・フレンチ氏(John French)の二人が中心となって、S&W製品をベースとしたカスタムガンを創出すべく意欲的な製品をリリースし始めた。当初、同時期に結成されたS&Wシューティングチームのサポートを一手に引き受けていたが、市場の変遷とともに旧モデルの再生産やセミカスタム、さらにはLew HortonやRSRといったディストリビューター(販売代理店)向けのリミテッドモデル等を続々とリリースしていく。
S&W社が初めて.45ACP口径のセミオート“645”をリリースしたのは、1985年のことであった。このダブル/シングルアクションピストルは短命で、1988年には“Third Generation”(サードジェネレーション)の“4506”など4桁ナンバーの製品にモデルチェンジする。
このサードジェネレーションは各部がよりリファインされ、.45ACPの威力を重視するLE機関には受けが良かったが、そのスライドマウントにこだわったサムセイフティ/デコッカ—が災いして、ポピュラーになり切れなかったという経歴を持っている。フルサイズの4506は1999年まで製造されたが、ほかのモデルはリミテッドランやポリス専用モデルとして短命に終わることが多かったようだ。
突如、PCから.45ACP口径シングルアクションであるModel 945がリリースされたのは1999年のことだ。あのS&Wが1911そっくりのシングルアクションを出したというので、かなり話題になったという事を記憶している。
PCが他社のカスタムショップと一線を画しているのは、通常既存のモデルをカスタマイズするのがメインの仕事である他社に比べ、PCでは既存のパーツを流用することもあるが、モデルによっては全く新しいパーツを作り上げてしまうという点にあった。この945などはその最たる例で、スライドこそ4506スタイルの流用だが、フレームなどのメインパーツを始め、各部のパーツは独自に開発、もしくは1911スタイルパーツを踏襲しているのだ。945のカスタムポイントをリストしてみよう。
● 独自デザインのステンレス製フレーム。グリップアングル&シェイプは1911に酷似
● フレームマウント アンビサムセイフティ
● ストレート チェッカード メインスプリングハウジング
● ビーバーテイル グリップセイフティ
● フロントストラップ チェッカリング
● エクステンデッド マガジンリリース
● フレアード マガジンウェル
● ウィルソンコンバット アジャスタブル リアサイト
● フィッシュスケール(うろこ状)前後セレーション
● ドブテイル フロントサイト
● スフェリカル(球状の)ブッシング
● ランプド マッチバレル
● リコイルスプリングガイド
と、ここまでくると皆さんもお気づきだろうが、945PCというのは限りなくカスタム1911に近いS&Wなのだ。
その後S&W社がブラウニングデザインの1911モデルをそのラインナップに加えたのは、2003年のことであった。当時フロリダ州オーランドで開催されていたSHOT SHOWで、いぶし銀に輝くS&W1911を見た時の驚きは今でもよく覚えている。その時の私はすでに945を所有していたので、「ああ、945は消えゆく運命にあるのだな」と感慨深かったのだ。
それでもS&W 945のプロダクションは2005年まで続くことになる。4インチや3-1/4インチ銃身のモデル、アルミフレームのモデルなど、少量とはいえ、いくつかのディストリビューター向けの新しいモデルがPCからリリースされ続けた。
今回の初期型(正確にいうとマイナーチェンジを受けた2代目ということになるが)を手にしてまず驚かされるのは、その工作精度の高さと、タイトなフィッティングだ。皆さんも写真をご覧いただくとすぐに納得できると思うが、確実に高精度CNCマシンを使ったであろうことがわかる切削加工と、あくまでも美しいポリッシュ面とビードブラスト仕上げの組み合わせは、端正かつ精微で美しい。この驚きは通常分解をして内部の加工を精察してもずっと続く。スライド、バレル、フレームのフィッティングはほぼ完璧で、グリップを握りしめて振ってみても「コトリ」とも音がしない。それでいてスライドを引いてみると、あの最上級カスタム1911が備えている、まるでボールベアリングを介しているようなぬらりとした感触を残しつつ、スムーズな後退が始まるのだ。これはもう絶対に熟練のガンスミスがハンドフィットしたものに違いない。バレルの可動部分やチェンバー入り口付近をよく見ると、フレーム内に落ち込むラグの部分やフィーディングランプ周りは、ほとんど鏡面に近いほど磨き込んである。眺めるだけで眼に麗しい工業製品というのがあるものだと納得してしまった。
また実射の際に目の当たりにすることになるが、このフィット&フィニッシュで精度が悪いはずがないというのも実感だ。精度に関しては、スフェリカルブッシングの存在も見逃せないだろう。これは1911のカスタムパーツで有名なブライリ—社(Briley MFG)が製品化しているパーツで、ブッシングの中に球状にしか可動できないチタンナイトライドコーティングを施したリングを封入することによって、ティルトするバレルをよりタイト、かつスムーズに支えるのだ。これによりバレルが常に同じ位置に戻るようガイドするという優れたパーツなのだ。
タイトとスムーズという、ある種相反する要素を卓越した技術で融合している945だが、そのリライアビリティ(信頼性)はどうだろうか。かつての有名なカスタム1911の多くは、新品の状態ではあちこちのフィッティングがタイトすぎるものが多く、まともにファンクションさせるには少なくとも2,000発ほどはブレイクインさせる必要があった。私の経験からすると、1990年代のリチャード・ハイニ—氏(Richard Heinie)やスティーヴ・ナストフ氏(Steve Nastoff)といったほんの一握りのウルトラガンスミスが手掛けたトップノッチカスタムのみが、この“ぬらり”とした操作感覚を初めから備えていたという認識がある。
スーパーガンスミスの作品と比べるのは少々おこがましいが、お気に入りであるという贔屓目があるのは理解したうえで、945のアクションは、高精度切削機械仕上げと緻密なハンドフィニッシュによる成果である、というのが正直な感想だ。
今回の945はいわば“セイフ クィーン” というやつで、金庫(セイフ)から出ることは滅多にないが、これまでホローポイント弾を中心に1,500発以上撃ってきた中で、ジャムを起こした記憶は全くない。945が軽々とこなすテストに“Empty loading”(エンプティローディング)というのがある。これはマガジンに空薬莢をフルロードし、手動でスライドを前後させ排莢するというもの。945はこれを余裕でこなしてしまう。今回比較用に実射したコルト1911でこれを試すと、やはりケースのエッジがローディングランプやチェンバーの入り口に引っかかってしまい、スライドが閉鎖できないという症状が起きてしまう。マガジンの角度が違うだけでなく、やはりハンドポリッシュされたローディングランプ周りが効いていると思われる。


