2025/12/12
COLT MK Ⅲ TROOPER & LAWMAN 357 MAGNUM【ビンテージモデルガンコレクション29】

Text & Photos by くろがね ゆう
Gun Professionals 2014年8月号に掲載
1975年にMGCから発売されたプラスチック製モデルガンのMKⅢは衝撃だった。それまでのハイパトなどとは明らかに違う完成度がこのMKⅢにはあり、モデルガンは金属製でなければ…というそれまでの概念を覆し始めたのだ。


諸元
メーカー:MGC
名称:コルト マークⅢ トルーパー/ローマン
主 材 質:耐衝撃性ABS樹脂
発火機構:シリンダー内前撃針
撃発機構:シングル/ダブルアクション ハンマー
カートリッジ:Oリング入りインナーロッド方式
使用火薬:平玉火薬2~3粒/ 7mmキャップ
全長:
トルーパー 235mm(4インチ)、286mm(6インチ)
ローマン 180mm(2インチ)、230mm(4インチ)
*カタログやチラシによって数値は微妙に異なります。
重量:
トルーパー 520g(4インチ)、595g(6インチ)
ローマン 450g(2インチ)、500g(4インチ)
*カタログやチラシによって数値は微妙に異なります。
口径:.357
装弾数:6発
発売年:1975(昭和50)年
発売当時価格:
トルーパー 4インチ ¥5,500、6インチ ¥5,500、
ローマン 2インチ ¥5,000、4インチ ¥5,000、
(カートリッジ別売り)
オプション: .357マグナム カートリッジ1箱6発入り ¥700-、クイックローダー ¥700-Mk-Ⅲ用替シリンダー・セット ¥900
※ smG規格(1977年)以前の模擬銃器(金属製モデルガン)は売買禁止。違反すると1年以下の懲役または30万円以下の罰金に処せられます。(2025年現在)
※ 1971年の第一次モデルガン法規制(改正銃刀法)以降に販売されためっきモデルガンであっても、経年変化等によって金色が大幅に取れたものは銀色と判断されて規制の対象となることがあります。その場合はクリアー, イエロー等を吹きつけるなどの処置が必要です。
※全長や重量のデータはメーカー発表によるものです。また価格は発売当時のものです。
実銃のトルーパー/ローマン(マークⅢ)は1969年に発売された。MGCがこのモデルガンを発売したのはそれから6年しか経っていない1975年のことだ。当時のモデルガンは最新型ではなく、第二次世界大戦時のものなど、クラシックな名銃が作られることが多かったので、こんなに新しいモデルが作られるのは珍しいことだった。ボクを含めマークⅢを知らない人も多かったはず。
なぜ日本であまり知られていないマークⅢにしたのか。設計を手掛けた小林太三さんの答えは明快だった。発火性能のよいコルト社のリボルバーを作るのにピッタリだったから。
MGCでは、ハイパトと44マグナムの大ヒットを受けて、S&W社のライバルとなるコルト社のリボルバーも作ることになった。コンセプトは年少者でも買いやすい価格で、火薬を詰めてバンバン撃って遊べるプラスチックモデルガン。それに裏の理由として、みんなが良く知らないモデルなら、多少のアレンジを加えてもあまりクレームが来ないということもあったそうだ。当時は発火派が多く、正確な考証や再現を重視する模型派は少なかった。それでも、ちょっとでも違うと指摘してくるコアなマニアもたまにいたという。

実銃のマークⅢはそれまでのコルト製品と違って、すり合わせのような作業をしなくても確実な作動が可能で、コストダウンが図れる銃として設計された。コイルスプリングの多用、フローティングファイアリングピン、トランスファーバー(セフティコネクター)の採用などは、まさにモデルガンにピッタリだったという。しかも、ダブルアクションとシングルアクションともにハンマーのストローク(回転角)が大きかった。小林さんは実銃を手にし、作動させてみてすぐにこれだと思ったそうだ。これならシリンダーの回転不良が起きにくく、不発も起きにくい。
特にリボルバーのダブルアクションは設計がむずかしい。オートマチックのダブルアクションと違って、リボルバーでは同時にシリンダーも回転させなければならないからだ。小林さんによると、シングルアクションの場合は0.3mmくらいのズレがあっても問題なく作動するのでモデルガンでも簡単に再現できるが、ダブルアクションになると0.1mmズレてもうまく動かなくなるという。プラスチックのフレームでは金型から出したあとに反りなどが発生するほか、ちょっと力を加えただけで簡単にたわんだり歪んだりして0.1mmのズレなどすぐに生じてしまう。そこで正確な寸法を出しやすく頑丈な、スチールプレスのシャーシを使うことを思いついたという。たぶん、てんぷら構造のものは別として、MGCのマークⅢがプラスチックモデルガンで初めてインナーシャーシを採用したのではないだろうか。大げさに言うとこの考え方が現在の実銃のポリマーフレームにも応用されているような気がするのだが、考え過ぎか。
フレームは、最初からラウンドバット、スクウェアバット、オーバーバットの3種類のグリップが装着できるように、フレームのヒール部分のコーナーを落としてデザインされた。これもすばらしいアイデアで、現在の実銃リボルバーでこの形式にしたものも見かける。グリップをバックストラップ部分まで回して反動を軽減するのがメインの目的かもしれないが、小林さんの着眼点の鋭さがここにも伺える気がする。
フレームはトルーパー用とローマン用で2つ作った。当時はモデルガンがよく売れていたので、多少予算を掛けてもすぐに回収できたそうだ。そしてバレルは別に作り、改造防止のインサートと重量増加用の金属ウエイトを入れてから、超音波溶着でフレームと接合していたという。
超音波溶着というのは、超音波で熱可塑性樹脂(熱で柔らかくなる樹脂)の接合部分を振動させ、摩擦熱で一体化する技術。接着では接着剤が乾くまで待たなければならないが、これだと1秒程度で完了する。MGCにはこの装置があったという
ただ、単純な円筒型のバレルなら簡単だが、エジェクター・シュラウドがついていたり、リブが乗っていたりすると曲がりやすいのだそうだ。しかもバレル長によって共振点が変わり、周波数や溶着点などの設定が微妙に異なるらしい。MGCではさまざまな実験をしてベストなセッティングを見つけ出したという。それでも不良品が出ることはあり、特に長いバレルで多いのだとか。44マグナムでは6.5インチもあったのでずいぶん苦労したそうだ。
そのため、マークⅢはローマンの2インチと4インチ、トルーパーの4インチしか発売しなかった。ところがトルーパーの6インチが欲しいと言うリクエストがたくさん寄せられるようになり、(しかたなく!)翌年の5月に発売した。やはり何回も実験を繰り返した記憶があるそうだが、あるいは、6インチだけ接着にしたかもしれないということだった。今回お借りしたものをじっくりと見てみたが、どうも接着ではないように思えた。両方あったのかもしれない。たぶんこの時の実験で44マグナムの8-3/8インチ(1976年発売)も可能になったのではないだろうか。
さらにマークⅢの金型では当時の最新技術も導入されていた。そのままでは抜くことができないアンダーカット部分を「ルーズコア(傾斜コア)」という手法を使って抜くことを実現していたのだ。これは小林さんがチャーターアームズのリボルバーやハイスタンダードのダブルナインなどを参考に考案した新機構「ヨークストッパー」が入るバレル下のくぼみに使われている。これを金型から出したあとで機械加工するとなるとコストが一気に跳ね上がってしまう。金型は高くなっても、モデルガンが売れていた時代なので、問題なかったという。実はこの技術を使って、GM5で後加工していたフレームのレール部分を、GM7では型で抜いているそうだ。そして、型から出した後のソリなどは矯正する専用治具があったという。ところが射出成型する会社が替わった時にちゃんと伝えられなかったり、治具が紛失したりして、次第に不具合の多いものができてしまうことになったらしい。
トリガーガード前部のプラスねじは、この頃ちょうど製造ラインで電動ドライバー(またはエアードライバー)が普及し出して世の中の標準となっていたためだ。マイナスねじは特注で、7倍ものコストがかかるため断念したという。しかしファンの評判は芳しくなく、のちにマイナスねじに変更されている。
同様にサイドプレート先端の分割が実銃と違っている点もよく指摘される。これも小林さんに伺ったところ、実銃のように斜めにカットして一般的な皿ねじで固定すると、プラスチックではねじを締めるごとにサイドプレートが押し出されて逃げて行き、すき間ができるため変えたのだそうだ。
すべてが完璧ではなかったものの、モデルガンに新時代の到来を告げる画期的製品だったことは確かだ。1980年にはエジェクターシュラウドの付いたニューローマン2インチが発売され、さらにシルバーめっきモデルやスーパーリアルヘビーウエイト(SRHW)樹脂製のバリエーションも発売された。
一般向けに大ヒットになったのはもちろん、TVや映画界でも普通の警察官や刑事が使うリボルバーっぽいということで非常によく使われた。MGCのマークIIIシリーズは間違いなく名銃だった。
Text & Photos by くろがね ゆう
協力:小林太三(タニオコバ)
撮影協力:Dream Garage KURO
Gun Professionals 2014年8月号に掲載
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